【書評】立花隆・著『脳を鍛える―東大講義「人間の現在」』978-4101387253

1,書評目的

 立花隆という人間をよく知るために重要なことが多数記載されていると考えるため。立花隆の教養観、学問観などを通じて立花隆著作の行間をより正確に読み解くことが可能になると考える。

2,10段階評価

 10点

3,書評

 立花隆東京大学で行った講義をまとめたのが本書である。刊行当初は続編が刊行される予定だったようだが今日に至るまで刊行されていない。とにかく立花隆がその瞬間に考えていたことが明瞭にまとめられているといった印象。立花隆の仕事のように分野が限定されずに脳科学から古典まで幅広く、悪く言えば内容があちこちに飛ぶ。

 立花隆は本書で教養とは「思想の毒を解毒することのできる知識群」という表現をしているが、またあるときには教養とは学問を学び取るための基礎知識群であるという風に表現しているため教養観にはそれほど固定的なものを持っていない可能性が指摘できる。

 冒頭で痛烈に東大生を批判しているが立花隆自身も東京大学で学士号を修めているため批判は愛あればこそ。立花隆にとっては東京大学の学生のレベルが低下したという問題意識がこの時点から形成されていたようだが、本書ではその原因を入試制度に求める。この後もこの問題意識が継続したようで、その問題意識から書かれたのが『東大生はバカになったか』である。ただこれは雑誌の連載をまとめたものなのだが、連載5回目以降は『天皇と東大』という書籍になって刊行されていることからもわかる通り、東京大学の歴史を紐解くには日本の近代化というテーマ、そして第二次世界大戦というテーマを切り離すことがどうしてもできないようで、立花隆は「東大生の質」というテーマから東京大学と日本の近代史、天皇制度の戦前の揺れなどを取り扱はなくてはならなくなってしまった。ちなみに『天皇と東大』も名著であり、追って書評したい。

4、本書を読むべき人

 大学で学ぶということの意味を見失った人、これから大学生活を迎える人、学問に身を捧げる覚悟を決めようとしている人、日本の近現代史を学び直したい人